Asia Arsenic Network - 特定非営利活動法人 アジア砒素ネットワーク

インドの砒素汚染

インド国旗

インドは、世界第2位の人口を持つ大国であり、多様な民族、言語、宗教の人々で構成されています。近年の経済成長により都市部では目覚ましい発展がみられますが、人口の70%以上を占める村落部では貧困に苦しむ人が多い国でもあります。

インドの砒素汚染地図インド北部のヒンドスタン平原の広がる西ベンガル州、ビハール州、ウッタルプラデッシュ州で大規模な砒素汚染があります。最近は、インド東北部のアル ナーチェルプラデッシュ州、アッサム州、ナガランド州、マニプル州、トリプラ州、メガラヤ州でも砒素汚染のある井戸が見つかっているという報告があります。これらの州はヒマラヤ山脈を源にする支流からベン ガル湾にそそぐまでのガンジス川流域での地下水砒素汚染です。そして、インド中央部のティースガル州には鉱山活動のある地域があり、その周辺でも地下水砒素汚染の報告があります。

アジアの大河流域に広がる砒素汚染問題が世界に向けて初めて発信されたのは、1995年2月にインド西ベンガル州の州都コルカタで開かれた「地下水砒素汚染に関する国際会議」のときでした。

この会議で、西ベンガル州では1983年に初めて砒素に汚染された井戸水を飲んで砒素中毒にかかった人が見つかり、1995年の時点では推計で中毒患者は20万人はいるとの報告がありました。

その後の報告では、西ベンガル州では8つの郡で砒素汚染があり、その中でも高い砒素汚染のある地域は、Malda、Murshidabad、Nadia、24North Parganas、24South Parganasの5つの郡で、これらはバングラデシュとの国境線沿いに位置しています。少なくとも800万人が砒素汚染の危険にさらされているとのことです。

2003年8月には、ガンジス中流のビハール州Bhojpur郡Sharpur地区で採水した2773サンプルのうち砒素濃度が0.05mg/lを上回った井戸が20%あった(0.01mg/lは40%)と報告がありました。また同じくビハール州Semria村にも高砒素汚染地域があり、206チューブウェルのうち57%が国の基準値(0.05mg/l)を超えており、村人には深刻な皮膚症状(大人13%、子供6.3%)見られました。

さらに同年9月、ウッタルプラデッシュ州では、地下水に砒素、カドミウム、フッ素、硝酸塩、鉛などが含まれていて飲用に適しておらず、州人口1億6600万人の70%が安全な水を飲めない状況であるということを州政府が報告しました。

2005年3月に発行された世界銀行の報告書によると、インド東北部の6州(アル ナーチェルプラデッシュ州、アッサム州、ナガランド州、マニプル州、トリプラ州、メガラヤ州)にも砒素汚染があるとのことです。具体的には、アッサム州のDhemaji郡とKarimganj郡で調査した241のチューブウェルのうち19.1%が国の基準である0.05mg/lを超えていたこと(42.3%は0.01mg/l以上)、マニプル州のThoubal郡とImphal郡の584のチューブウェルのうち41.27%が0.05mg/lを超えていた(64.72%は0.01mg/l以上)などの報告がありますが、限られた井戸調査の結果であり汚染地全容の把握には至っていません。

以上のケースはガンジス川流域におこっている砒素汚染ですが、以下は西ベンガル州などの砒素汚染とは異なった特徴のものとして報告されています。

1999年、インド中央部のチャッティースガル州南部のRajnandgaon郡Chowki地区に砒素汚染があることが明らかになりました。この地区の146サンプルを分析した結果8%が0.05mg/lを超えていました。ほとんどの汚染井戸は50m以下のチューブウェルでしたが砒素汚染にはまれなダグウェルの汚染も3つ見つかりました。Kondikasa村に高砒素汚染地域があり、村人には皮膚症状(大人42%、子供9%)も見られます。この地域の汚染原因は明らかになっていませんが、バングラデシュや西ベンガル州などのそれとは異なるのではないかと言われています。近くには鉱山(金、ウラン)もありそれが原因の可能性もありますが、採掘方法や規模についての情報はなく砒素汚染被害の全容もわかっていません。

インドでは、これらの砒素汚染に対して様々な調査や対策が実施されています。中でも都市部では100万人以上を対象にした大規模な浄水施設の建設や既存のパイプ給水施設に砒素除去装置を設置するなど積極的な対策が行われてきました。

村落部でも深井戸の建設、既存のチューブウェルに砒素除去装置を設置したり、家庭用砒素除去フィルターの配布などしていますが、汚染エリアは広範囲でまだまだ局所的な対策に過ぎません。インド全体の汚染メカニズムの把握、砒素汚染分布の把握などの調査とともに村落部をカバーする対策が求められています。また、インドの地下水には高塩分、フッ素、鉄、鉛などの砒素以外の汚染物質も含まれていることから、砒素対策に加えてそれらを含めた大規模で包括的な水対策が求められています。

アジア砒素ネットワークの活動

アジア砒素ネットワークでは、2008年6月から2年間、宮崎大学が実施してきたJICA草の根事業「インド国ウッタルプラデッシュ州における地下水砒素汚染の総合的対策」に協力してきました。

このプロジェクトは、ウッタルプラデッシュ州で砒素汚染のある18県のうち一番汚染が深刻なバライチ県の2つの村の7集落を対象に実施されました。事業内容はこれまでのAANのバングラデシュでの砒素対策の経験を活かしたもので、総合的な砒素汚染対策事業(砒素汚染に関する啓発、患者発掘と健康管理および代替水供給装置の建設)を村民と行政と共に実施しました。

2010年10月からは、5月で終了した草の根事業に引き継ぎ、同じJICA草の根事業で、前回対象とならなかった残りの25集落に、行政主導の砒素対策が行われるように導いていく活動を実施する計画です。

宮崎大学インドプロジェクトの詳細はAANの活動のページをご覧ください。

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